酒場のドアが開き、若い男が店に入る。
あのコミュニティ構成員だ。
「よう、ケント。グレースはいないぜ」
「はあ? いないんすか?」
マスターの言葉に、彼は落胆の表情を浮かべる。
「お前が来たら、好きな酒を好きなだけ飲ませてやるように言われてる。まあ座れよ」
「俺が飲みたいのは、グレースさんが注いでくれる酒っす。いないなら帰ります」
「そりゃそうか」
マスターはあっさりと肯定した。
「催涙スプレー喰らっても、お前はグレースのファンか」
「いや、一歩間違えばアブナイ奴みたいに聞こえるっすよ、それ」
「ところで、例のネゲルって科学者だけどよ、コミュニティに拉致されたんだって?」
「ええ、鄭長老も奴にはかなり怒ってたもんで。今頃は解剖台のカエルの気分を、少しは味わってるんじゃないっすか?」
ケントはニヤリと笑う。
「ところでグレースさん、何処に行ってるんすか?」
「どこってそりゃ……見舞いだよ」
………
とある大病院。
ガードマンたちが機関銃で武装した病院など、この国では珍しくもない。
「401号室……ここか」
ジャンは病室のドアを開けた。
一緒にいるのは、リチェ、グレース、そしてダージェン。
殺風景な病室のベッドには、白人の青年が横たわっていた。
頭には包帯が巻かれ、左手には栄養点滴の管が繋がっている。
「……綺麗な顔してるね」
リチェが言う。
「そうだな」
グレースが撃った銃弾はアレクセイの頭に命中したが、その後手術で摘出し、奇跡的に一命は取り留めた。
本人の生命力の強さあってのことだったが、彼はまだ目覚めない。
これから永遠に目覚めることは無いかも知れないと、医者は言っていた。
「……前を向いて歩こう、後ろに目はついていないから……だったよな」
「ええ」
グレースはアレクセイの手をそっと握り、暖かみを確かめた。
ジャンはこのような場面が苦手らしく、一人病室から出る。
「これで……良かったんだよな」
「全力を尽くした結果がこれならば、これが最良の結末ということだ」
同じように病室から出たダージェンが言う。
彼が公安を通じて処理局に根回しをしたおかげで、ジャンとサムは始末書一枚を書いただけで済み、リチェとリーゼも、処罰は免れた。
そうでなくとも彼らは先の脱出劇で、処理局ではすでに英雄扱いになっていたのだから、それほど大目玉を喰らうことは無かった。
爆弾で怪我をしたカンタロスも近いうちに退院し、仕事に復帰できるそうだ。